
『宝石の国』は市川春子による日本の漫画作品です。宝石の体を持つ人型の生物たちが月から襲来する敵・月人との戦いを繰り広げながら生きていく物語です。この記事では、『宝石の国』のストーリー展開と伏線回収について紹介します。
宝石の国とは?あらすじと登場人物を紹介
「宝石の国」とは、市川春子によるSFファンタジー漫画です。2012年から『月刊アフタヌーン』(講談社)で連載中で、現在は12巻まで発売されています。2017年にはフルCGアニメ化もされました。
この作品の舞台は、遠い未来の世界です。かつて「にんげん」と呼ばれる生き物が存在したと伝えられるこの世界では、地上の生物が海中で微小生物に食われて無機物となり、長い時間を経て宝石の体を持つ人型の生物が誕生しました。
28体の宝石たちは、自分たちを拐っていく月から来る敵・月人(つきじん)との戦いを繰り返しながら、残された陸地で指導者である金剛先生のもとで暮らしています。
宝石たちには性別や老化という概念はありませんが、戦闘や事故によって身体が破損すると、その部位にあった記憶を失ってしまいます。また、宝石たちは硬度や色彩などによって個性や役割が異なります。
主人公は、宝石たちの中でも最年少で最も脆いフォスフォフィライト(通称フォス)です。フォスは何の仕事もできずにいましたが、金剛先生から博物誌作成の仕事を任されます。
しかし、その仕事中に月人に襲われて両足を失い、代わりに貝殻とアゲートから作られた足をつけます。それ以来、フォスは身体や性格が変化していきます。
フォスは仲間たちを守るために強くなろうとしますが、同時に金剛先生や月人に対する疑問や不信感も抱くようになります。そして、この世界の真実を知るべく、月へと向かうことになります。
登場人物は以下の通りです。
- フォスフォフィライト(声:黒沢ともよ):硬度3.5。主人公。脆くて不器用なため何の仕事もできずにいたが、博物誌作成の仕事を任される。月人との戦闘で身体を失ったり変えたりすることで変化していく。
- シンシャ(声:朴璐美):硬度9.5。夜間見回り担当。毒液を分泌する体質のため仲間から離れて暮らす。フォスを助けたことで彼と約束を交わす。
- ダイヤモンド(声:小松未可子):硬度10。戦闘担当。最も硬い宝石だが、脆さも最高レベル。ボルツとコンビを組んでいたが、フォスとも組むことになる。
- ボルツ(声:釘宮理恵):硬度10。戦闘担当。宝石の中で最強の戦闘力を持つ。ダイヤの兄であり、彼を溺愛している。
- イエローダイヤモンド(声:小山茉美):硬度10。戦闘担当。宝石の中で最年長であり、3597歳。優しくて面倒見が良いが、過去に失った仲間たちのことを引きずっている。
- ジェード(声:高橋李依):硬度7.5。戦闘担当。金剛先生の補佐役であり、宝石たちのリーダー的存在。真面目で責任感が強いが、頑固で頭が固い。
- ルチル(声:内山夕実):硬度6.5。医療担当。宝石たちの治療や修復を行う。冷静で知的だが、自分の能力に自信がなく、眠っているパパラチアを目覚めさせることに執着している。
- パパラチア(声:花澤香菜):硬度6.5。医療担当。ルチルの相棒だったが、夜になると眠ってしまう体質のため、長い間眠り続けている。
- アンタークチサイト(声:小林ゆう):硬度7.5。冬眠中の見回り担当。冬にしか活動できない体質のため、他の宝石たちとはほとんど交流がない。フォスに厳しく接するが、彼を気にかけている。
- アメシスト(声:水樹奈々):硬度7。戦闘担当。84と33という2人1組の宝石であり、常に一緒に行動する。仲良しでお調子者な性格。
- ネフライト(声:小清水亜美):硬度6.5。武器製造担当。武器や道具を作る技術者であり、ジェードの相棒でもある。
- エウクレース(声:井上麻里奈):硬度7.5。情報収集担当。天気や月人の動向などを観測する能力を持つ。
- モルガナイト(声:伊藤静):硬度7.5。戦闘担当。エウクレースの相棒であり、彼女をサポートする。
- ゴーシェナイト(声:福圓美里):硬度7.5。戦闘担当。エウクレースとモルガナイトの弟分であり、彼女たちに憧れている。
- ベニトアイト(声:日笠陽子):硬度6.5。戦闘担当。敵から逃げることに長けており、その際に発する音波で仲間に敵の位置を知らせる。
- ヘマタイト(声:小野大輔):硬度6。戦闘担当。磁力を操ることができる。冷静沈着で頼りになるが、やや皮肉屋な一面もある。
- ツボミ(声:花江夏樹):硬度6.5。戦闘担当。花のような髪飾りをつけている。明るく元気で好奇心旺盛な性格。
- シロ(声:小倉唯):硬度7.5。戦闘担当。ツボミの相棒であり、彼女とは対照的に無口で無表情な性格。
- キュンツァイト(声:中村悠一):硬度7。戦闘担当。宝石の中でも最も古くから金剛先生に仕えている。落ち着いた雰囲気で、他の宝石たちからも敬われている。
- ゾイサイト(声:東山奈央):硬度6.5。戦闘担当。キュンツァイトの弟分であり、彼に憧れている。感情豊かで素直な性格。
- バーサパライト(声:田村ゆかり):硬度6.5。戦闘担当。キュンツァイトとゾイサイトの弟分であり、彼らと仲が良い。おっとりとした性格だが、戦闘では勇敢に振る舞う。
- オブシディアン(声:小野友樹):硬度5.5。武器製造担当。ネフライトの助手であり、武器や道具を作る技術者。クールで無愛想な性格だが、仕事には熱心である。
- アレキサンドライト(声:茅野愛衣):硬度8.5。戦闘担当。光の色によって自分の色が変わる特性を持つ。月人に対する知識が豊富で、彼らに興味を持っている。
- ペリドット(声:水瀬いのり):硬度7。戦闘担当。アレキサンドライトの相棒であり、彼女をフォローする役割を担う。明るく快活な性格だが、やや天然な一面もある。
- チタン(声:小林裕介):硬度6.5。戦闘担当。金属系の宝石であり、身体が重いため動きが鈍いが、その分防御力は高い。
- ルビー(声:上坂すみれ):硬度9。戦闘担当。赤い色をした宝石であり、月人に狙われやすいため、常に危険を感じている。
- サファイア(声:内田真礼):硬度9。戦闘担当。青い色をした宝石であり、ルビーとは対照的に冷静で落ち着いている。
- スピネル(声:松岡禎丞):硬度8。戦闘担当。赤と青の二色をした宝石であり、ルビーとサファイアの兄弟分。彼らとは仲が良いが、やや短気で口が悪い。
- フローライト(声:小澤亜李):硬度4。戦闘担当。虹色に輝く宝石であり、美しい外見をしているが、脆くて壊れやすいため、常に包帯を巻いている。
- フィロリア(声:佐倉綾音):硬度5.5。戦闘担当。花のような髪飾りをつけている宝石であり、ツボミとは親友。優しくて穏やかな性格だが、戦闘では敵に容赦しない。
- カルセドニー(声:梶裕貴):硬度7。戦闘担当。青白い色をした宝石であり、ジェードの弟分。彼に忠誠を誓っており、彼のためなら何でもする。
- ラピスラズリ(声:早見沙織):硬度5.5。情報収集担当。青い色をした宝石であり、エウクレースの先輩。頭脳明晰で戦略家だったが、月人に頭部を奪われて眠っている。
- パイライト(声:中井和哉):硬度6.5。戦闘担当。金色に輝く宝石であり、ラピスラズリの相棒だった。彼の頭部を取り戻すために奮闘している。
- コルネリアン(声:花澤香菜):硬度7。戦闘担当。赤みがかった色をした宝石であり、パイライトの弟分。彼に憧れており、彼のためなら何でもする。
- プラチナ(声:杉田智和):硬度4.5。武器製造担当。金属系の宝石であり、オブシディアンの先輩。彼とは仲が良く、よくからかっている。
- ゴールド(声:小野大輔):硬度2.5。武器製造担当。金属系の宝石であり、プラチナの相棒。彼とは仲が良く、よくからかっている。
- シルバー(声:小野友樹):硬度2.5。武器製造担当。金属系の宝石であり、プラチナとゴールドの弟分。彼らとは仲が良く、よくからかわれている。
- トパーズ(声:水樹奈々):硬度8。戦闘担当。黄色い色をした宝石であり、アレキサンドライトの相棒だったが、月人に拐われてしまった。
- パール(声:上坂すみれ):硬度2.5。戦闘担当。白い色をした宝石であり、フローライトの相棒だったが、月人に拐われてしまった。
宝石たちの謎と真実に迫る壮大なストーリー展開
『宝石の国』のストーリー展開と伏線回収について紹介します。物語の魅力や見どころをネタバレありで解説していきます。
※本記事では『宝石の国』のネタバレが含まれますので、読み進める際はご注意ください。
『宝石の国』のストーリー展開
『宝石の国』のストーリー展開は、主人公・フォスフォフィライト(通称フォス)を中心に展開されますが、フォスはその脆さから戦闘には向かず、見張りにも医療にも工芸にも向いて織らず、何の仕事(役割)も与えてもらえなかった、「必要とされていない」存在でした。しかし、遂に金剛先生から博物誌作成の仕事を与えられることで、物語が動き出します。
フォスは博物誌作成のために様々な宝石たちや月人やアドミラビリス族と関わりますが、その過程で自分の身体や記憶を失って変化していきます。フォスは自分の役割や存在意義を探す旅に出ますが、その先に待つものは喜びではありません。
以下に各巻ごとのストーリー展開をまとめます。
- 1巻:フォスは博物誌作成の仕事を任される。月人からシンシャを助けるが、カタツムリ型の月人に飲み込まれる。復元されたフォスはカタツムリ本体と話せるようになる。
- 2巻:カタツムリ本体はアドミラビリス族のウェントリコスス王と名乗り、「人間」が「月人・宝石・アドミラビリス」の先祖だと話す。王は弟のアクレアツスと引き換えにフォスを月人に渡そうとするが、失敗する。フォスは両足を失うが、アゲートと貝殻で復元される。
- 3巻:フォスは新しい足で俊足になり、見張りの仕事を許可される。アメシストとコンビを組むが、月人に襲われる。冬になり、フォスは眠らずにアンタークチサイトの仕事を手伝うが、流氷に落ちて両腕を失う。
- 4巻:フォスは金と白金の合金で復元されるが、制御不能になる。月人が学校を襲うが、先生と親しげに振る舞う。フォスは先生の正体を疑うようになる。
- 5巻:フォスは合金を制御できるようになり、月人を撃退する力を得る。しかし、悪夢に苦しみ、罪悪感から逃れられない。春になり、宝石たちはフォスの変貌に驚く。フォスはシンシャの記憶を失っていたことに気づく。
- 6巻:フォスはボルツとコンビを組むが、大型の月人に苦戦する。月人は先生の姿を見ておとなしくなり、「しろ」と吠える。先生も「しろ」と呼んで親しげにする。フォスは先生の正体や目的を知りたいと思う。
- 7巻:フォスは月人と交渉するために月へ行くことを決意する。月人はフォスの提案を受け入れるが、条件として他の宝石も連れてくることを要求する。フォスはシンシャやダイヤやボルツらを説得して月へ向かう。
- 8巻:フォスたちは月へ到着するが、そこで驚くべき事実を知る。月人たちはかつて「人間」と呼ばれる生物の一部であり、「人間」は自ら分裂して「月人・宝石・アドミラビリス」となったことを話す。また、「人間」の最後の一人である先生は、宝石たちを月人から守るために彼らと戦っていたことを明かす。
- 9巻:フォスは先生の真意を知るために、月人の提案で彼らと共に地上へ戻る。しかし、彼は月人と結託した裏切り者として他の宝石たちから敵視される。フォスは先生に真相を問いただそうとするが、彼は何も答えない。その代わりに、フォスを含む6人の宝石たちを連れて再び月へ飛び立つ。
- 10巻:フォスは先生の目的や行方を追うべく、月人やアドミラビリス族と協力することになる。しかし、その過程で自分や仲間たちとの関係や感情が壊れていくことに気づく。フォスは自分が何者なのか分からなくなっていく。
- 11巻:フォスは先生の居場所を突き止めるが、そこには月人の王であるアダムスと先生の妻であるイヴがいた。イヴは先生に「人間」を復活させるために協力するように頼むが、先生は拒否する。フォスは先生に自分たちのことを思い出すように訴えるが、先生はフォスのことも忘れていた。フォスは激怒して先生に襲いかかるが、アダムスに阻まれる。
- 12巻:フォスはアダムスとイヴに捕らえられるが、月人の反乱軍に救出される。反乱軍のリーダーはアクレアツスであり、彼は「人間」を復活させることに反対していた。アクレアツスはフォスに「人間」の正体や目的を教えるが、それはフォスの想像を超えるものだった。一方、地上では宝石たちが月人との最終決戦に備えていた。
フォスフォフィライトの変貌と心理描写に注目
「宝石の国」の主人公・フォスフォフィライト(通称フォス)は、物語の中で様々な変化を遂げていきます。その変化は身体的なものだけでなく、精神的なものも含まれています。この記事では、フォスの変貌と心理描写に注目して、彼のキャラクターの魅力を紹介します。
身体的な変化
フォスは物語の始まりでは、宝石たちの中でも最も脆くて不器用な存在でした。彼は何の仕事もできずにいましたが、博物誌作成の仕事を任されることになります。しかし、その仕事中に月人に襲われて両足を失ってしまいます。
その後、貝殻とアゲートから作られた足をつけたフォスは、俊足を手に入れます。しかし、それだけではなく、記憶や性格も変わってしまいます。貝殻とアゲートはアドミラビリス族という生物からもらったものであり、彼らと会話ができるようになります。
さらに、冬の見回りを担当するアンタークチサイトの仕事を手伝っていたフォスは、流氷に落ちて両腕を失ってしまいます。代わりに金と白金の合金をつけますが、その合金はフォスの意志と関係なく動き出します。月人が襲来した際には、高い戦闘力を発揮しますが、アンタークは救えませんでした。
春になって冬眠から目覚めた宝石たちは、フォスの変わりように驚きます。フォスは合金の力を制御できるようになりますが、シンシャの記憶を失ってしまっていることに気づきます。また、月人からラピスラズリの頭部を奪還する際に自分の頭部も失ってしまいます。
ラピスラズリの頭部をつけたフォスは、さらに知性や冷静さを増します。しかし、それと引き換えに感情や記憶も失っていくことになります。フォスは自分が何者なのか分からなくなっていきます。
精神的な変化
フォスは身体的な変化だけでなく、精神的な変化も経験していきます。物語の始まりでは、フォスは明るくて前向きでしたが、月人や宝石たちとの出来事によって次第に暗くなっていきます。
フォスは月人と戦うことで自分や仲間たちの命や記憶が危険にさらされることを知ります。また、月人や金剛先生に対する疑問や不信感も抱くようになります。この世界の真実を知るべく、月へ向かうことに決めます。
しかし、月へ行ったことで、フォスはさらに混乱します。月人たちは宝石たちと和平を結びたいと言いますが、その条件は金剛先生を引き渡すことだと言います。フォスは金剛先生や月人の真意を知りたいと思いますが、そのためには仲間たちを裏切ることになります。
フォスは自分の行動が正しいのか、自分の感情が本物なのか、自分の存在意義は何なのかという問いに苦しみます。また、仲間たちや月人たちとの関係も複雑になります。フォスは孤独や苦悩に満ちた心境になっていきます。
美しくも悲しい宝石たちの運命とは?
この作品は、遠い未来の世界で、宝石の体を持つ人型の生物たちが、月から襲来する敵・月人との戦いを繰り広げながら生きていく物語です。宝石たちは不老不死でありながらも、身体や記憶を失って変化していくことで、自分や仲間とは何か、生きるとは何かという問いに直面します。また、月人や金剛先生との関係も複雑であり、敵味方や正義悪という単純な区別ができません。この作品は、読者にも多くの考えさせる要素を提供しています。
宝石たちの運命
宝石たちは、自分たちの硬度や靭性に応じて役割や立場が決まっています。戦闘力の高い者は見張りや戦闘要員として月人と戦い、低い者は学校で掃除や補修などの仕事をします。しかし、どんな役割を持っていても、月人に襲われて身体を破壊されたり拐われたりする危険にさらされています。
月人は宝石たちを装飾品にしようとしており、拐われた宝石たちは二度と戻ってきません。宝石たちは月人を恐れており、彼らの目的や正体を知りません。しかし、物語が進むにつれて、月人たちにも様々な思惑や感情があることが明らかになります。
物語の主人公・フォスフォフィライト(通称フォス)は、最初は硬度が低くて不器用な宝石でしたが、博物誌作成の仕事を任されることになります。その過程で様々な出会いや別れを経験し、身体や性格も変化していきます。フォスは自分の役割や存在意義を探す旅に出ますが、その先に待つものは喜びではありません。
フォスは月人と交渉するために月へ行きますが、そこで驚くべき事実を知ります。月人たちはかつて「にんげん」と呼ばれる生物の一部であり、「にんげん」は自ら分裂して「月人・宝石・アドミラビリス」となったことを話します。また、「にんげん」の最後の一人である金剛先生は、宝石たちを月人から守るために彼らと戦っていたことを明かします。
フォスは金剛先生の真意を知るために、月人の提案で彼らと共に地上へ戻ります。しかし、彼は月人と結託した裏切り者として他の宝石たちから敵視されます。フォスは金剛先生に真相を問いただそうとしますが、彼は何も答えません。その代わりに、フォスを含む6人の宝石たちを連れて再び月へ飛び立ちます。
フォスは金剛先生の目的や行方を追うべく、月人やアドミラビリス族と協力することになります。しかし、その過程で自分や仲間たちとの関係や感情が壊れていくことに気づきます。フォスは自分が何者なのか分からなくなっていきます。
宝石の国の魅力とおすすめポイント
この作品は、遠い未来の世界で、宝石の体を持つ人型の生物たちが、月から襲来する敵・月人との戦いを繰り広げながら生きていく物語です。宝石たちは不老不死でありながらも、身体や記憶を失って変化していくことで、自分や仲間とは何か、生きるとは何かという問いに直面します。また、月人や金剛先生との関係も複雑であり、敵味方や正義悪という単純な区別ができません。この作品は、読者にも多くの考えさせる要素を提供しています。
宝石の国の魅力① 美しいビジュアル
『宝石の国』の最大の魅力は、美しいビジュアルです。宝石たちの姿や色彩は見る者を惹きつけますし、月人やアドミラビリス族などの異形の存在も不思議な魅力を持っています。また、宝石たちが繰り広げる戦闘シーンも迫力があります。
宝石たちは、自分たちの硬度や靭性に応じて役割や立場が決まっています。戦闘力の高い者は見張りや戦闘要員として月人と戦い、低い者は学校で掃除や補修などの仕事をします。しかし、どんな役割を持っていても、月人に襲われて身体を破壊されたり拐われたりする危険にさらされています。
月人は宝石たちを装飾品にしようとしており、拐われた宝石たちは二度と戻ってきません。宝石たちは月人を恐れており、彼らの目的や正体を知りません。しかし、物語が進むにつれて、月人たちにも様々な思惑や感情があることが明らかになります。
宝石たちの身体は光を反射してキラキラと輝きますが、それは同時に彼らの儚さや脆さも表しています。月人の攻撃によって身体が欠けたり割れたりするとき、その光景は美しくも悲しいです。また、欠けた部分は記憶や感情も失われることがあります。そのため、宝石たちは自分自身や仲間との関係性に変化や違和感を感じることになります。
宝石たちのビジュアルは、作者の市川春子さんが実際に宝石を購入して参考にしているそうです³。また、宝石たちの名前や性質も、実在する鉱物に基づいています。例えば、主人公のフォスフォフィライトは、薄荷色の透き通った結晶を持つ鉱物で、非常に脆くて希少な宝石です⁴。このように、宝石たちのビジュアルは、現実の鉱物学に裏付けられたものです。
宝石の国の魅力② 個性豊かなキャラクター
『宝石の国』のもう一つの魅力は、個性豊かなキャラクターです。この作品には28人の宝石たちが登場しますが、それぞれに特徴的な容姿や性格や能力を持っています。また、宝石たちは無機物でありながらも感情や成長を見せます。
宝石たちは無機物であるため、性別はありませんが、どちらかといえば男性的または女性的な雰囲気を持っています。作者の市川春子さんは、「上半身は男の子、下半身は女の子」をイメージして描いているそうです。そのため、宝石たちのやりとりは少年同士のようでありながらも、思春期の男女のようでもあります。ジェンダーレスな雰囲気を漂わせつつ、友情と愛情が曖昧で未成熟な関係性が男性読者にも女性読者にも琴線に触れます。
物語の主人公・フォスフォフィライト(通称フォス)は、最初は硬度が低くて不器用な宝石でしたが、博物誌作成の仕事を任されることになります。その過程で様々な出会いや別れを経験し、身体や性格も変化していきます。フォスは自分の役割や存在意義を探す旅に出ますが、その先に待つものは喜びではありません。
フォス以外にも、様々なキャラクターが登場します。例えば、
- シンシャ:体から毒を出してしまうために他の宝石たちと距離を置いている孤独な宝石。フォスと仲良くなります。
- ダイヤモンド:戦闘力が高く美しい容姿を持つ宝石。しかし硬度が高くても靭性が低いために割れやすい弱点を持っています。
- セントロサ:最強の戦闘要員である赤い宝石。金剛先生に恋心を抱いています。
- ボルツ:見張り要員である青い宝石。真面目で責任感が強くリーダーシップを発揮します。
- ルチル:医者である黄色い宝石。パートナーだったパパラチアを治すことに執着しています。
このように、『宝石の国』のキャラクターは、それぞれに魅力的で感情移入できるものです。彼らの関係性や成長や運命にも注目して読んでみてください。
宝石の国の魅力③ 壮大な世界観と深いテーマ
『宝石の国』のさらにもう一つの魅力は、壮大な世界観と深いテーマです。この作品は、遠い未来の世界で、人間が姿を消し、代わりに人間を分裂した「月人・宝石・アドミラビリス」という三種族が存在するという設定です。この設定は、仏教の教えに基づいています。
仏教では、人間は「肉・骨・魂」という三つの要素から構成されているとされます。また、人間は「欲望・執着・無明」という三つの煩悩によって苦しみを生み出しているとされます。この作品では、人間が自ら分裂して「月人・宝石・アドミラビリス」となったことで、それぞれが人間の一部を受け継いでいます。
- 月人:人間の魂を受け継いだ種族。欲望に満ちた存在で、宝石たちを装飾品にしようとしています。
- 宝石:人間の骨を受け継いだ種族。執着に囚われた存在で、金剛先生や仲間たちに依存しています。
- アドミラビリス:人間の肉を受け継いだ種族。無明に覆われた存在で、自分たちの存在意義や目的を知りません。
このように、『宝石の国』は、仏教の教えをモチーフにした世界観を展開しています。この世界観は、読者にも多くの考えさせる要素を提供しています。例えば、
- 人間とは何か?
- 生きるとは何か?
- 正義と悪とは何か?
- 変化とは何か?
- 愛とは何か?
などなど、様々なテーマが物語に散りばめられています。これらのテーマは、宝石たちが自分自身や他者と向き合うことで深く掘り下げられていきます。読者も宝石たちと一緒に自問自答することで、物語への没入感や感動が増します。
宝石の国の魅力④ ストーリー展開と伏線回収
『宝石の国』の最後の魅力は、ストーリー展開と伏線回収です。この作品は、読んでいるだけで様々な伏線が張られていることに気付きます。読み進めるごとに増える謎や伏線が複雑に張り巡らされ、巻を進めるごとに回収されていく爽快感があります。
物語は主人公・フォスフォフィライト(通称フォス)を中心に展開されますが、フォスはその脆さから戦闘には向かず、見張りにも医療にも工芸にも向いて織らず、何の仕事(役割)も与えてもらえなかった、「必要とされていない」存在でした。しかし、宝石たちを束ねる金剛先生から博物誌を編むように頼まれることで、物語が動き出します。
フォスは博物誌作成のために様々な宝石たちや月人やアドミラビリス族と関わりますが、その過程で自分の身体や記憶を失って変化していきます。フォスは自分の役割や存在意義を探す旅に出ますが、その先に待つものは喜びではありません。フォスは月人と交渉するために月へ行きますが、そこで驚くべき事実を知ります。月人たちはかつて「にんげん」と呼ばれる生物の一部であり、「にんげん」は自ら分裂して「月人・宝石・アドミラビリス」となったことを話します。また、「にんげん」の最後の一人である金剛先生は、宝石たちを月人から守るために彼らと戦っていたことを明かします。
フォスは金剛先生の真意を知るために、月人の提案で彼らと共に地上へ戻ります。しかし、彼は月人と結託した裏切り者として他の宝石たちから敵視されます。フォスは金剛先生に真相を問いただそうとしますが、彼は何も答えません。その代わりに、フォスを含む6人の宝石たちを連れて再び月へ飛び立ちます。
フォスは金剛先生の目的や行方を追うべく、月人やアドミラビリス族と協力することになります。しかし、その過程で自分や仲間たちとの関係や感情が壊れていくことに気づきます。フォスは自分が何者なのか分からなくなっていきます。
このように、『宝石の国』は、フォスの視点から見た世界の真実や謎が次々と明らかになっていくストーリー展開です。しかし、それだけではありません。この作品は、読者の視点から見た伏線や謎も多く用意されています。例えば、
- 月人と金剛先生の関係
- 金剛先生の正体
- 月人の目的
- アドミラビリス族の存在意義
- 宝石たちの記憶や感情
などなど、様々な伏線や謎が物語に散りばめられています。これらの伏線や謎は、巻を進めるごとに回収されていきますが、その回収方法は予想外で衝撃的です。読者も宝石たちと一緒に驚きや感動や悲しみを味わうことができます。